「戦場のニーナ」一気に読みました。私は誰なのか。どこから来てどこに行こうとしているのか?生きながらなお、身も心も魂もさ迷っている。一生を自分のルーツ、身体に流れる血のルーツ探しに費やさなくてはならなかった人間の半生として読みました。
この舞台は62年前の戦場ですが、今この時にも、自分の出目をたたれようとしている赤ちゃんがいるかもしれません。この小説をこうした観点からも、読んでいただけたら嬉しいと思います。
なかにしさんの作品は、、、おすすめ度
★★★★★
みずからの兄につづいて、わたしなんかが生きてはいけないような
辛い満州のニーナの物語。書き物というのにはその人が移りだされます。
なかにしさんはTVで拝見する以外に存知ませんが、言葉も静かで
細かいところまで飲み込んでしまう。そんな優しい人なんだと思いました。
ニーナがどんどん変わっていく、美しく泥の中の蓮の花のように
かかれているとおもいました。
本当は恋愛物ではなく、当時の戦争下での人々の行く末と日々が
かかれているのではないでしょうか。
作り物としても、それはうたかたのはるか手の届かぬ恋なのかもしれません。
女性に一読していただきたく推薦いたします。
自分のルーツを求めて彷徨う魂おすすめ度
★★★☆☆
小説はそもそも虚構だから別に構わないわけだが、どうも芝居がかった感じが強くて気になってしまう。
愛を語らう台詞回しといい、場面の転回の感じといい、舞台の演劇を観ているようだ。
異国人の戦争孤児という状況の中で自分のルーツを求めて彷徨う魂。
それは、普通に生まれ育った日本人としては空想するしかない感覚で、現実的に感じようとすること自体、無理なのかもしれない。
それにしても、終幕で自分の発見された戦場跡に立つ主人公の姿は、私には非現実的すぎて、歌舞伎の大仰な幕引きを思い浮かべてしまった。
慟哭の歴史をひもとく!
おすすめ度 ★★★★★
満州牡丹江生まれの作者が、そのルーツを賭けて描ききった真実の歴史である。ロシアの戦車部隊に、文字通り踏み潰されつくした牡丹江。奇跡的に生き残った幼児が、その後の苛烈な運命を生き抜いた記録を基に編まれている。巻末の資料・取材協力者の名をみれば、ほぼ事実をもとに物語が書き起こされているだろうと推測される。更に、なかにし礼の著者略歴で「牡丹江生まれ」とあるのを見つければ、作者がこの作品に寄せる熱意に納得し、うちのめされるはずだ。
これは一人の少女の、数奇にして不屈の物語であるにとどまらない。その奇跡の命を、ロシア軍の気高く勇猛なボルコフ大尉や、深い人間力を持つムラビヨフ中将が、平和の象徴として守り育んだ物語でもある。
ニーナの魂の救済は、日本と言う国のアイデンティティーの救済でもある。国を愛する心とは、こういう物語を通してこそ理解されるべきである。ナショナリズムとインターナショナリズムとは、必ずしも対立する概念ではないのだ。
三度繰り返される、ニーナ命名の場面が印象的だ。繰り返されるたびに、意味づけが深くなる。おそらくモデルのニーナ自身の口から語られた場面なのだろう。