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名短篇、ここにあり (ちくま文庫 き 24-1)

半村 良
おすすめ度:★★★★★
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読書の幅を広げてくれます。
おすすめ度 ★★★☆☆

短編集多々ある中で、北村薫、宮部みゆき編の各種アンソロジーはいつも知り得なかった読書世界を見せてくれて興味深いものです。
(「謎のギャラリー」シリーズとか「松本清張短編集」とか。)
今回も目利きの二人だからこそのセレクトで、一口では言い表せない多種多彩なラインナップとなっています。
城山三郎「隠し芸の男」はよくあるサラリーマンの悲哀ものを超えて、人間の業を描いた凄みすら感じる作品。
多岐川恭「網」は連作短編の中の一編ということですが、ラストの脱力感に脱帽。これは全編読みたくなりました。
その他ラスト2編、井上靖「考える人」円地文子「鬼」も味わいがたい余韻を残す作品で、こういった作品を知り得たことを嬉しく思える作品です。
読む人によって感じる作品もそれぞれだと思いますが、読書好きな人は読んで損なしだと思います。



愛すべき掌編たち
おすすめ度 ★★★★☆

 オビに「北村薫と宮部みゆきのお薦め12篇」とありましたが、わたしのように文学作品に詳しくなく、ひいきの作家も特にいない読者にとっては、本書のようなアンソロジーはとても有難いです。
 初めて読む作家が多かったのですが、練達の筆致で描き出される作品は、どれも巧みな語り口で物語世界の中へといざなってくれる。素朴な小品が多いので、やや物足りなく感じる読者もいるかもしれませんが、小説を読む楽しさを改めて感じさせてくれるような、味わい深い短篇が揃っていると思います。巻末の、収録作品をめぐる北村、宮部両氏の対談も、作家ならではの読み方がうかがえて、とても面白い。
 全12篇の中から、いくつか特に印象に残ったものを挙げると―
 城山三郎「隠し芸の男」は、新年の宴会でへそおどりの隠し芸を毎年披露してきた銀行員の話で、一見ユーモラスな中に、身につまされるようなやるせない読後感を残す。
 吉村昭「少女架刑」は、一人の少女の遺体が献体に出され解剖されていく様が、少女の魂を介して語られていく。繊細さと生々しさがない交ぜになったような特異な作品で、寂寞とした哀しみが滲み出てくる。
 多岐川恭「網」は、恋人と別れさせられた男が企てた計画殺人の顛末を描いた娯楽サスペンス。一幕のドラマを見ているような作風で、短篇ならではのコンパクトな面白さがある。
 戸板康二「少年探偵」は、小学生の<足立君>が、なくなった物の在り処を次々に言い当てていく話で、子供の心が巧みに捉えられた、愛着をおぼえる一篇。
 井上靖「考える人」は、一体の木乃伊(みいら)をめぐる考古ミステリーのような趣があるしみじみとした作品。主人公の男は、かつて旅先で目にした印象的な木乃伊との再会を期して、仲間と東北へフィールドワークに出かける。そして木乃伊となった男の生前に思いを馳せていく。
 円地文子「鬼」は、ある女性の結婚の行く手にいつも<鬼>が介在して邪魔をするという、オカルト的筋立ての怪奇譚。目に見えない呪詛の怖さがじわっと醸し出されてくる一方で、女性の幸せな生き方への問いも感じる。



「意外な作家の意外な逸品」
おすすめ度 ★★★★☆

帯の言葉に偽りはありません。
「意外な作家の意外な逸品」
まさに、この言葉がぴったりと当てはまるアンソロジーです。
私がアンソロジーを好んで読むのは、そこにこうした作家の意外な一面を見せてくれる作品に出会えるからです。

冒頭から、「となりの宇宙人」(半村良)という「落語」まがいの作品から始まります。
私の好みでは、「冷たい仕事」(黒井千次)「隠し芸の男」(城山三郎)といったサラリーマンの悲哀を感じさせてくれる作品です。
それと、死者の一人称で書かれている「少女架刑」(吉村昭)なども好きです。

その他、「むかしばなし」(小松左京)「あしたの夕刊」(吉行淳之介)「穴−考える人たち」(山口瞳)「網」(多岐川恭)「少年探偵」(戸板康二)「誤訳」(松本清張)「考える人」(井上靖)「鬼」(円地文子)と、どれもキラッと光る秀作揃いです。

巻末の「面白い短篇は数々あれど」と題された北村薫、宮部みゆきの対談も面白いです。



もういくつか、インパクトのある作品と出会えていたら・・・
おすすめ度 ★★★☆☆

 日本人作家の12の短篇+編者の北村薫と宮部みゆきの「解説対談」(2007.6.29 山の上ホテルにて)を添えた文庫本アンソロジー。
 収録作品は、半村良「となりの宇宙人」、黒井千次「冷たい仕事」、小松左京「むかしばなし」、城山三郎「隠し芸の男」、吉村昭「少女架刑」、吉行淳之介「あしたの夕刊」、山口瞳「穴――考える人たち」、多岐川恭「網」、戸板康二「少年探偵」、松本清張「誤訳」、井上靖「考える人」、円地文子「鬼」。
 マイ・ベストは、吉行淳之介の「あしたの夕刊」。フランスの心理サスペンス風の味わい。洒落たアイデアと、うそ寒い恐さが、見事にブレンドされた逸品。これは面白かったな。
 一体の木乃伊(みいら)の人間像が、登場人物たちの推理によって浮かび上がってくるところに妙味を感じた井上靖の「考える人」。母と娘にまつわる鬼憑きの話に、漫画『百鬼夜行抄』シリーズに通じる風情があって、ぞくりとさせられた円地文子の「鬼」。哀しみの風韻を帯びたおしまいの二篇も、印象に残る佳品でした。
 そして、収録短篇のそれぞれどの辺に作品としての旨味を感じたかを、ざっくばらんに、読み巧者のふたりが語り合う巻末の「解説対談」。これが興味深く、「うんうん」「なるほどなあ」などと頷かされる読みごたえを感じましたよ。
 もういくつか、インパクトのある作品と出会えていたらもっと楽しめたんですが・・・。やや期待はずれのところもあったので、星三つとさせていただきました。



語りの名人たち
おすすめ度 ★★★★☆

まさに抱腹絶倒の半村良の「となりの宇宙人」に始まって、ストーリー展開の妙というより、語りのテクニックで読ませる作品が集められている。
単純に物語の展開だけを追う読者には物足りなく感じるのだろうか、他の評者の方の低評価は不審ですらある。
吉村昭の写実的な作品群に親しんだものとしてはシュールさとリアリズムが同居する「少女架刑」のような作品を書いているというのは興味深かった。同じことは企業小説の書き手として知られる城山三郎の「隠し芸の男」の残酷な味わいにもいえる。
ただ多岐川恭の連作の一編だけを採ったのはいささか疑問で、誤解を招きかねない。「的の男」はトリッキーかつ暗いユーモアに満ちた連作長編で、なおかつ作者の最大の美点である叙情が味わえる佳作である。ミステリマニアで未読の方にはお奨めする。


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