浜尾四郎全集〈2〉殺人鬼
創元推理文庫の『浜尾四郎集』とどちらを選ぶか迷ったが、長編を全て収録しており『鉄鎖殺人事件』が現在この本でしか読めないのでこちらをセレクトした。本書は沖積舎『浜尾四郎全集』の第2巻に当たり、第1巻では短編・随筆を収める。
私立探偵藤枝真太郎は元検事で女嫌い。ワトソン役の小川雅夫は藤枝の高校時代の同級生という設定。この小川が『殺人鬼』といい『鉄鎖』といいやたら女に一目ぼれするし、母親と同居だし、下手すると『古畑任三郎』の今泉慎太郎かというヘタレキャラだ。
翻訳臭を感じるとの評価もある『殺人鬼』だが、戦前の本格長編としては破綻無くよく出来ている。乱歩『魔術師』と並んでヴァン・ダインの色が濃いけれども、咀嚼後の表現は異なるので興味のある人は読み比べてみるといい。書き下ろし長編企画「新作探偵小説全集」全10巻の一環として昭和8年発表された『鉄鎖殺人事件』も通俗的と言われるがストーリーは纏まっており悪くはない。浜尾四郎自身が「検事→弁護士」の職業柄、他の作家より法律に詳しい為、作品にハッタリを効かせられなかったという説もある。逆にその緻密な性格で、長編のストーリーをあるべき結末にもってゆく力という意味では横溝正史と比肩したかもしれない。同性愛への興味もあっただけに、乱歩『孤島の鬼』とは別の形でそれを活かした作品が読みたかった。わずか四十歳で早世したのが誠に惜しまれる。
作品数が少ないせいか、大きなハズレが無い人である。他に論創社『浜尾四郎探偵小説選』もあり。
日本探偵小説全集 (5) (創元推理文庫 (400‐5))
著者の代表作「殺人鬼」は、身もふたも無いタイトルですが、いわくありげな金持ち一家を舞台にした連続殺人事件を描いており、今読んでもそこそこ面白く読めます。
時代も却ってこれくらい経ったほうが、古典と割り切って読むことが出来るので違和感もあまり無いと思います。
ただ、個人的な好みとしては、あまりに理屈が勝ちすぎる内容だったので、もう少し人間的なドラマが盛り込まれていたほうが楽しめたと思います。
名探偵二人に、推理小説マニアの令嬢も巻き込んだ推理合戦など、謎解きが好きな人は寄り楽しめるでしょう。