異国情緒を薬味にした普遍的小説おすすめ度
★★★★☆
文字通り中国を題材にした短編集。「異色」と銘打ってあるのは別に作品が異端譚という訳ではなく、複数の作家の中国に題を取った短篇を集めた企画自身が異色という意味だろう。勿論、異国情緒は感じられる。尚、以下では中国の地名、人名等を当用漢字で表記できない場合があり、その際はカタカナで表記することを容赦されたい。
「指」は男と3人の女(妾含む)の交情を、男の「指」に焦点を当てて描くというユニークな作品で、現代日本の小説として書かれても不思議ではないが、舞台設定により情感の深みが増す。「曹操と曹ヒ」は日本でも有名な曹操の父子関係を描き、そこに父子関係の普遍性を見い出すという趣向。「方士徐福」は経歴不詳な徐福の後半生を想像で補って、蓬莱へ旅立つまでを描いたもの。最後に、中国、日本に残っている徐福の伝説を纏めて紹介してくれるのも嬉しい。「汗血馬を見た男」は張ケンという武将が匈奴攻めの使命を帯びながら捕まり、後半生を匈奴人として生きるというもの。「汗血馬」は騎馬民族の間に伝わる"天馬の裔"と言われる名馬の事。「西施と東施」は本作で一番の出来で、ある村の傾国の美人西施とその友人の醜女東施の友情、敵国に召し上げられた西施がその美貌で文字通り敵国を内から滅ぼす機知、そんな西施の心を知って逞しく生きる東施を描いて秀抜。「蛙吹泉」は珍しくも間欠泉を用いたミステリ。
中国と言う異国情緒を誘う舞台で普遍的な人間の心理模様を描いた傑作短編集。
「おもしろい」と思った作品が少なかったのは残念。おすすめ度
★★★☆☆
11編中、春秋2、戦国1、秦1、楚漢1、前漢1と、「史記」の世界が圧倒的に強いっすな、テーマとして取り上げられた時期は。残り5編の内2つ(『九原の涙』、『蛙吹泉』)は時代背景を借りた創作小説。自由に物語を作るには、民衆の力が大きくなった宋代と、混沌とした雰囲気を醸し出す近代中国というのは使いやすいのかもしれない。
短編として扱うのなら、春秋戦国や五胡十六国、五代十国のような小覇王乱立の時代がおもしろいと思うです、それ以上になるとスケールがでかく成り過ぎちゃって短編にまとめられないから。