話が「全然まだ序章」である点と、世界観の説明不足でのめり込めないのが残念過ぎます。おすすめ度
★★★☆☆
劇場でやたらと「予告編」が連発されていて期待させられた作品だけれど・・・蓋を開けてみたら第1作めということを考慮しても「普通」な作品でした。ちなみに「原作は未読」です。
12歳の少女が黄金の羅針盤に導かれて世界の運命を握る戦いに赴くというあらすじは心惹かれるものはあった。確かに。ただ、この世界において人が必ず一人につき一匹(?)連れている守護霊の「ダイモン」のことにしろ、パラレル・ワールドが舞台かと思いきや「現実世界と同じ地名」が出てきたりと、どうにも劇中での説明不足が目立ちます。
自分の母親とは知らない女の口車に乗ってしまい「学園の外」に出てみたものの、子供ばかりを誘拐する謎の集団の存在があったりで羅針盤に導かれて極地へと赴くライラ。
白熊がやたらと目立ち、終始戦っていたかのような印象がありましたが、極寒の地のはずなのにどうにも寒そうにしていなかったりで演出が弱いですね。
当然の如く「次回作へと続く」のですが、次の作品が劇場公開されている頃には多分、前作のあらすじを忘れてしまいますよ。この内容だと。
つまり、全然「のめり込めるような話になっていない」のです。簡単に言うと。
現代の深層を映し出す物語おすすめ度
★★★★★
故河合隼雄先生はファンタジーについて次のように書いている。「ファンタジーというと、すぐに空想への逃避という言葉を連想し、それに低い評価を与えようとする人がいるが、ファンタジーというのは、そんなに生やさしいものではない。それは逃避どころか、現実への挑戦を意味することさえある。」
この「ライラの冒険」というファンタジーはまさに、我々の現実に挑戦する。大袈裟に言ってしまえば、この物語は、現代の深層で起こりつつあることを如実に映し出している。それは、使い古され凝り固まった教義・ルールにしがみつく人たちと真実を追い求める人々の戦いである。個人レベルで考えれば、現状にしがみつき変わろうとしない自分と自分の本質的な部分がそれに対して目覚めを促す戦いである。
もちろん、キリスト教文明圏内ではない日本にいる人にとって、この物語はわかりにくいかもしれないけれど、象徴的に観るならば了解できる部分も増えてくると思う。教権を人々をしばりつけるという意味での教会や魂・自分の本質的な部分(ダイモン)の成長を阻害する社会としてみたり、ジプシャンを自然とつながる知恵の体現者であるネイティブアメリカンやアイヌの人たちとしてみたりすることで、物語の深い意味が伝わってくると思う。
教権に鎧を奪われて、酔っ払って自暴自棄の白クマを戦後以来、抑圧されて歪められた日本人の暴力性と見ることだって出来るだろう。昨今の凶悪な犯罪を考えるまでもなく、日本人は戦後以来、見ないようにしてきた暴力というか「力」をこれ以上、抑圧し続けることは出来ない。日本人は「力」というとすぐに暴力に結び付けてしまうが、この映画が象徴的に映し出しているように、戦争を起こすためだけではなく、平和に辿り着くためにも「力」が必要なのだ。日本人はそろそろ、ライラのように酔っ払った白クマ(歪められた力=暴力)に勇気を持って向かい合い、本来の白クマ(真の平和のための力)を解き放ち、力強き大人への成長へと歩みを進めなければならない。
ここには書ききれないけれども、他にもこの映画から学ぶことは多い。僕は原作を読んでないので何とも言えないけれど、続編にも今作品ほどの深みを期待している。
原作を読んでいないと
おすすめ度 ★★★★★
確かに分かりにくいかも知れません。特に「ダイモン」については、予備知識がないと映画の中の説明だけでは物足りまりませんね。でも、「羅針盤(アレシオメーター)」を含めて、小道具のデザインは、結構面白く、また「別世界のオックスフォード」も実写とDCGによって、雰囲気が出ていました。
ボルバンガーは、あんな感じかな?少し疑問です。コールター夫人のニコール・キッドマンは、作者プルマンがイメージした俳優だそうですから、あっそうですか!という感じです。ただ、アスリエル卿のダニエル・クレイグは無理じゃないかな。まるで、アクション映画になりそうな雰囲気です。ジェイソン・アイザックスか、スタンリー・トゥッチあたりが嵌りそうな気がします。主人公は、こまっしゃくれていて、いかにもライラ、上手いですね。それとジプシャン(ファーダー・コラムなど)や魔女(セラフィナ・ペカーラ)は良いと思います。イオレクはCGですから、イメージ通りですよね(だいぶ苦労したみたいだけど)。キャバレリーを愛用する気球乗りリー・スコースビーズは、もっとテキサス訛りの英語(ドランキング・イングリシュ)を話して欲しかった。
総じて、原作を読んでいないと「なんですか!これは?の映画」です。原作も『指輪物語』に近いコアな「ハイ・ファンタジー」ですから、やはり「造語」が多くて「何ですか?(笑)」ですが・・・。
この作品、原作の三部作をすべて読んでから、ストリーをどのように縮めたか、登場人物のイメージは、とか比較してみると楽しめます。でも、スパールバルの描写、結構「リキ」が入ってますが、もっと何とかならなかったかなぁ。残念!
「特典ディスク」は、プルマン自信も登場して、創作の裏話に興味深いものがあります。2時間に満たない「映画」にするには無理があるのは分かりきっていたようです。映画にオリジナルの場面を加えたりして、極力「平易」にしたようですが、これが難解さを助長し、さらに軽さを招いたのでしょう。ただ、映像を楽しむ分には、原作を何度か読んだものとして、あまり不満はありません。なお、基本的には「byあきとさん」の評価に同調します。3部作の全てが映像化されてから、作品全体のバランスをどのように創作したかによって、星1か、あるいは、星5かに定まるでしょう。
個人的な興味は、2作目の「シャドウ」と「天使」をどう描くかですね。ここの「天使」は、リルケの『ドウィノの悲歌』第一の「すべての天使は恐ろしい」に通じます。その意味から言って、バチカンがこの作品を禁書(ハイリポタもそうですが)として、亜米利加の福音派(これって藪大統領によって誤解されてますが)の狂信的一部に嫌われているってのは、納得がいきます。だいたい「教権」って「強権」ですよ、「狂信」によるね。3作目の「望遠鏡」の映し出すものがどう映像化されるか?これも、興味ある所です。
『地獄の黙示録』の上映時にカットされた「フランス人移民」のエピソードをDVDに入れたことによって再評価されたようになると良いなとも考えています。本当は、星4つというところなんですが、『指輪』のアニメ版のようにポシャラずに、続篇もきちんと作ってくれることを期待しての星5つです。