砦なき者 (講談社文庫)
テレビドラマの脚本家、野沢尚ならではの作品。
報道や取材に関する描写が丁寧で細かい。
そしてそこで起こる人間関係の力学に始まり、
報道被害、そしてテレビが作り出す「カリスマ」の姿が、
克明に描き出される。
「破線のマリス」の延長線上にあるこの作品は、
テレビを含むメディアの恐ろしさを自覚した
一人のテレビマンからの警鐘と言えるだろう。
つくづく、惜しい作家を亡くしたものである。
妻夫木聡が悪人だったあの2ヶ月 [DVD]
日本アカデミー最優主演男優賞の受賞コメントでもらい泣きし、すぐさまポチりました。
あんな妻夫木くんの表情を見たら買うしかないでしょう。
あっという間に観終わりますが、
「悪人」がどのような順序で撮影されたのかとか、俳優さんたちのインタビューもあったり、
本番を別のカメラで撮って実際に映画で使われたシーンを挿入してあったり、
妻夫木くんが「祐一」になる瞬間(金髪)などが観れて、ファンとしては大満足です。
砦なき者
私が、著者の作品を読むのは『深紅』に続いて2作目なのだが、共通するのは心理描写の巧さだ。マスコミが人間、事件などを「祭り」に仕立てあげて行く様子。それを逆手にとってのし上がって行く八尋樹一郎。その悪意に気づいて行動をする長坂と赤松。マスコミ業界に携わって、よくその体質を知っている著者が、その巧みな心理描写を生かしきったからこその作品だと思う。終盤の心理戦には、鬼気迫るものがあった。
が、一方で、その重要人物である八尋がカリスマとなっていく過程がどうしても説明不足な印象が残った。カリスマにのし上がる過程が説明不足なだけに、それを信奉する若者達の行動・心理も理解が難しく、リアリティに欠けてしまっている感がある。その辺りがもう一歩。