L(紙ジャケット仕様)
後世への影響度からすれば、4作目の「グリーン」(1978年)を代表作とすべきなのかもしれないが、私はこのトッド・ラングレン製作の「L」(1976年)が大好きだ。
理由は、とにかくこのアルバムでの、スティーブ・ヒレッジはロックしてるから。そういえば、当時彼は、ローリング・ストーンズのセッションにも呼ばれたらしい。
袂を分かったゴングは、どんどんゲスト頼みのフュージョンバンド化し、自らのアイデンティティを希釈していった反面、ヒレッジは未だ見ぬ新しい音楽の構築に向けて、理想的なバンドとプロデューサーを得て、実にファンタスティックな「真のフュージョン・サウンド」のアルバムを創造した、それがこのアルバムだ。
ラーガ・ロックの先駆者の、2つのカバー曲(ジョージ・ハリソンとドノヴァンの作品)は本家を凌いでいて、完全に自分のオリジナルにしてしまっている。ゲスト参加のドン・チェリーのトランペットも実に効果的だ。
また同時期のトッドの動向との関連も見逃せない。この作品を聴いてトッド・ラングレンにも興味を持った人には、トッドのプログレ大作「イニシェイション」(1975年)を聴くことをおすすめします。
バンコ・ライヴ1980 [DVD]
イタリアを代表するプログレバンドBANCOの80年のライブ。80年という、バンコがポップ化しプログレから離れつつあった微妙な時期なのが残念。ライブアルバム「CAPOLINEA」を映像付きで見てる感じ。大ファンなので、動く彼らを見られるだけで嬉しいが、「よりによってどうしてこの年代なの?どうせなら、もっと他の年のを見たかった」と思わずにはいられない。パーカッション奏者をゲストに迎え、ファンキーでディスコティックな演奏を展開。前座だろうか?サーカスらしきものがバンコの演奏の前にあるのだが、誰も興味がないであろうそのサーカスの映像をやたらとプレイバックしてバンコの演奏に重ねるという変な演出が多々ある。意図がわからない。
「DI TERRA」は原曲がオーケストラとの競演なので、その分キーボードが頑張ったり、ロドルフォがトランペットを吹きカバー。最後のジャンニ・ノチェンツィのピアノソロがカッコよすぎる!こんなイケメンが、こんな美しく感動的なピアノを弾くなんて…惚れてしまいます!「GROFANO ROSSO」はキーボードやギターの見せ場が増える。「E MI VIENE DA PENSARE」は美しい歌声が胸を揺さぶる。この曲だけなぜかツインキーボードが交代し、兄がピアノ、弟がシンセ。ロドルフォはギターを置いてホルンを吹く。「RIP」はカポリネアと同じ、後半の叙情部をカットしたポップなアレンジが残念だが、それでもやはり名曲。「INTERNO CITTA」はダンサーのパファーマンスが映り、演奏はほとんど映らない。最後はドラムソロに。「CAPOLINEA」はメンバー紹介し、各人がソロを展開。「IL RAGNO」はノリノリだが、少しジャコモの歌が調子悪そう。「NON MI ROMPETE」はアコギの早弾きが熱い。「CIRCOBANDA」は客席にサーカスの人たちが高下駄で登場、そっちばかり映される。
フィッシュ・ライジング(紙ジャケット仕様)
75年発表の1st。魚をテーマにしたコンセプト・アルバム。ユリエルやカーンで活躍して、現在はシステム7として活動しているスティーヴ・ヒレッジが、ゴング加入後、そのゴングの仲間と作り上げたソロ・デビュー作。ゴングのメンバーの他には盟友とも言えるデイヴ・スチュワート(k)、リンゼイ・クーバー(bassoon) らが参加している。丁度ゴングはリーダーであったデヴィッド・アレンとジリ・スミスが脱退したばかりであり、そんな空中分解途中のグループをまとめてグループ再編の足掛かりとなる作品となった。ソロ名義にはなっているが、実質的にはヒレッジズ・ゴングの作品と呼んでも差しつかえのない作品だと思う。ヒレッジ自身も本作発表後ゴングを脱退して、再編一作目の『シャマール』にはゲスト参加に留まっている。
1.はカーン時代の名曲「見知らぬ浜辺にて」を思い起こさせるヒレッジらしい佳曲。本作にはカーン用に作曲された曲も含まれているとのことなのでこの曲は間違いなくカーン用のものだろう。後半の凄まじいギター・ソロは鳥肌物。ヒレッジのギタリストとしての力量と個性を思い知ることとなるだろう。
ヒレッジのギターとヴォーカルを中心としたスペーシーなゴング・サウンドを聞かせる素晴しい作品であり、初期ゴングの入門編としても最適。近年のシステム7やカーンの作品が好きな人でも絶対にお薦め出来る。無論、カンタベリー・ジャズ・ロックのファンなら必聴盤。この人のサウンドは最初から最近まで根っこの部分では変化しておらず、頑固一徹なアーティストだと言える。
レインボウ・ドーム・ミュージック(紙ジャケット仕様)
79年発表の7作目。ほとんど全てをヒレッジとミケット・ジロティ(k)の二人で作り上げた作品 (2.ではハーモナイザーでルパート・アトウィルのクレジットがある。) であり、アナログ時代の片面一曲ずつ合計2曲というアルバムである。ヒレッジにありそうでなかった初めての大作であり、システム7でもここまで徹底した作品は発表されていないため、極めて貴重なものである。アシュラ・テンプルにも直結する浮遊感と流れるような音空間はプログレの一つの究極の形態でもあり、ヒレッジとしてもサウンドそのものの気持ち良さを追求した極限のものであると思う。そしてそのサウンドは必然と言っているかのように初期のクラフトワークにも繋がっていく・・・。所詮アンビエントだが、聞いていると自分が溶けてしまうかのような気持ち良さは、他のこの種の作品では味わえない。アンビエント作品としては実質的にベストのものの一つだろうと思う。アカデミックな手法で大作を制作していたマイク・オールドフィールドと比較しても非常におもしろいと思う。チベタン・ベルの導入は明らかにマイクを・・・。何にしてもリズム隊が入っていないので、従来の作品とはタイプが異なるので注意。
モチヴェイション・ラジオ(紙ジャケット仕様)
77年発表の3rd。SYSTEM7にまで至るヒレッジの活動のパートナーとも言える、ミケット・ジロティ(k) が初めて参加した作品であり、彼女を含めたバンド形態で製作された作品。
1.はいきなりナチュラル・トーンでファンキーかつポップな演奏が飛び出してビックリ。しかしながらヒレッジのヴォーカルが入ると彼の世界になってしまうから不思議。中盤のソロはスペーシーないつものものであり、そのコントラストが素晴しい。2.もファンキーな曲だが、どこまでもヒレッジ節。ギターのリフが非常に印象的だ。ワウワウとスペース・エコーを駆使したソロも圧巻。3.はピーター・フランプトン風のハード・ロック。モロにパンクなフレーズとゴング風のウィスパー・ヴォイスが融合されている。4.はスペーシーなバックにナチュラルなトーンでのギター・ソロを聞かせる、なかなかの秀作。ヴォーカルが入ってからは、ややカーン辺りに近い印象を受ける。5.はヒレッジ流カントリー・バラード?泣きの入ったデュアルのギター・ソロを含めてなかなか染みる曲である。7.はシンセのS/Hを駆使したスペーシーな一曲。リズム隊が入るとモロにゴング風になるファンなら絶対に気に入る曲。8.もヒレッジの1stを彷佛とさせる。9.はR&Bの有名曲のカヴァー。
比較的乾いたサウンドでファンキー・タッチの曲をやるというアメリカンなサウンドだが、ヒレッジ節は建材。シンプルな演奏でポップな曲をやっているので、かなり聞きやすい作品だと思う。もちろん彼特有のスペーシーな質感は持っている。