幻想博物館 新装版 (講談社文庫 な 3-9 とらんぷ譚 1)
アンチ・ミステリの大作「虚無への供物」で著名な作者の連作短編集。「虚無への供物」のイメージが強いが、本来は本作のような幻想性・夢幻性に満ちた短編が本領とされる。13の短編が収められている。澁澤龍彦氏の解説も楽しめる。
各々の短編は一応独立しており、それぞれに趣向が凝らされているが、緩やかな連鎖がある。登場人物達の言動の虚実の見せ方、時間の遡行等の手法が巧みに使用され、単にオチが良く出来ていると言うレベルを越え、読む者を幻惑感で包む。「地下街」を初め、妙にノスタルジックな印象を与える作品が多いのも特徴。なお、この「地下街」は澁澤氏が「この作品について、なにも語りたくない」と褒め言葉を放っている程、錯綜感と懐古趣味が入り混じった秀作。澁澤氏も述べているいる様に、一作一作を紹介するのは野暮な内容で、兎に角読んで見て下さいと言うしかない作品揃い。
深い理知に基づいて書かれていながら、読む者を幻想と錯誤の世界に引き込む佳品。
新装版 虚無への供物(上) (講談社文庫)
正直、最初読んだときはハズレかと思ったよ。
素人探偵がほっとけばよいのに事件に首をつっこむし、最初から最後まで登場人物の言ってることが突飛だし、久生や藤木田老のキャラが気に入らないし、アリョーシャが主人公のくせに影が薄いし(テレビドラマでは完全に消されたらしい)、
紅司、蒼司、藍司、とテキトーにつけちゃったんだろうなーと思われる名前の人物が出てきて時々ゴッチャになるし、(殺し方、殺され方が)あまりグロくないし、
黒死館と同じくペダントリーではあるけれども、黒死館はある程度纏まったペダントリーであるのに対し、虚無への供物はあちこち飛んでしまうペダントリーで、
最初の 1.サロメの夜 から 終章の 59.壁画の前で まで嫌いなタイプのミステリー(?)だった。
犯人が出てきても、途中から犯人なんかどーでもよくなっていたから、へぇ、そうなの といった感じだった。
しかし……最後の 60.翔び立つ凶鳥 で私は心を奪われた。「虚無への供物」に憑り憑かれてしまった。
「虚無への供物」が日本三大奇書では最後の作品であるからか、他の2作品のネタが入っちゃってます。でも……
「ドグラ・マグラ」では作者(夢野久作)の力不足で結局表現できなかった、ストーリー自体のグロさ
「黒死館殺人事件」には無かった、文章、登場人物の人間らしさ(それも「黒死館殺人事件」を構成する一つの要素と思っていますが)
他の2作品に欠けてた表現が、「虚無への供物」では見事に表現されている!(かなり上から目線になってしまいましたw)
兎に角、途中で詰まらないと思っても我慢して、何度も読むべきです!!
「ドグラ・マグラ」とは違って、「虚無への供物」は2度、3度……と読む度に面白くなる。
中井英夫全集 (3) とらんぷ譚
『虚無への供物』で名高い中井英夫氏の文庫版全集第三巻は,もう
ひとつの大作『とらんぷ譚』全話が収められている。
『とらんぷ譚』は,雑誌「太陽」に連載された,『幻想博物館』『悪
魔の骨牌』『人外境通信』『真珠母の匣』の4つの連作シリーズに,さ
らに2作を加え,一冊にまとめたものである。元となった4つのシリー
ズは,互いに関連しあい,全体で長大な長編小説として読むこともでき
る。
連載当時,『人外境通信』中の一作を読み,子どもだったので,
よくわからないながらも,その妖しさに「これは深入りしたらコワイ世
界かも」と感じたのを懐かしく思い出す。