大いなる旅路 [DVD]
昭和19年3月12日、雪崩による橋脚の流失が原因で山田線を走行中の貨物465列車が脱線、谷に転落するという事故が発生し、機関士1名が殉職している。これを映画で再現する為に本物のSLを築堤から脱線転覆させて撮影された。一命をとりとめた当時の機関助士の記憶をもとに再現したと言われるセリフは迫真である。また、当時の日本人の使命感の強さを感じる。全編にわたり、SLの引く貨物列車や客車列車の貴重な映像が楽しめるので鉄道マニアは見る価値がある。最後には電車特急こだまの走行シーンも出てくる。ストーリーに際立ったものは無いが、予科練帰りの息子が、ぐれてしまったり、娘が活動家の仲間に騙されたりと、戦中、戦後の日本の一家族の様子が描かれており、当時を知らない私には興味深い。
中国人の腹のうち (廣済堂新書)
1972年米中国交樹立前夜、キッシンジャー米国元国務長官と周恩来総理の会見で
キッシンジジャー:中国ほど分かりにくい国はありませんね。
周恩来:(付き合い方の)コツさえ分かれば、何てことありませんよ。
と交わされた周恩来の言葉の意味を見出せないままでいましたが、この書により、中国人の思考回路が多少なりとも、明らかになる一助となりました。
特に、愛国心が、形成された時期、市民革命が、なされない理由は納得のいく答えが展開されてます。
点と線 [DVD]
この作品の存在は以前から知っていたが、どういうわけか、長年、ビデオ化がされず、(小倉にある松本清張記念館でさえ、見つけることは出来なかった)幻の作品だった。
私が、それほどに、この作品を見たいと思ったのは、この物語の舞台となった福岡市東区香椎というところに、住んでいたことがあったからだが、見てみると、それは、香椎という狭い空間に限定した話ではなく、当時の昭和三十年代という時代のもつ、空気そのものであった。
ただ、惜しいかな、肝心の主演の南廣のセリフがあまりにも棒読みであり、この点がどうしても、見るに堪えないものとなっている。
共演の名優、加藤嘉が、いい味を出していただけに、この点が、惜しまれてならない。
信長の棺〈下〉 (文春文庫)
この物語は本格歴史ミステリーといっていいと思うが、過去何回もモチーフにされてきた「本能寺の変」における織田信長の遺骸未発見の謎がメインテーマである。
信長唯一の伝記「信長公記」の作者であり、かつて信長と秀吉に仕えた元武士の著述家、太田牛一が主人公となり、この謎に迫る。
著者は牛一の視点を通して、すでに何人もの作家や歴史家が挑んでおり、いささか手垢がついた感のある「本能寺の変」の謎の真相ばかりでなく、「織田信長」その人の人物評価をはじめ、「桶狭間の戦い」の真相や「太閤秀吉」の出自にいたるまで、客観的・論理的に新しい解釈をしている。本書がベストセラーとなっている所以だろうが、私も「こんな斬新で大胆な見方もあったんだ」と興味深く読んだ。
著者はもともと経済・経営の専門家として、その著述・講演活動や企業の経営指導が高い評価を受けており、この作品が75才にして初めて発表した小説とのことだが、とても作家第1作とは思えない筆力に圧倒された。