嬉しうて、そして… (文春文庫)
売れている小説家の日常を書いたエッセイにも、駄文は少なからずあったりするが、著者による本書のようなエッセイは、「さすが!」とうならせる、含蓄に満ちた文章が詰め込まれているといった感がある。
1千5厘と言われた命を、人間機雷伏龍(これについては『人間機雷「伏龍」特攻隊』が城山氏著ではないが詳しい)として早々に終わることなく、経済小説の第1人者として天寿を全うした氏。
氏を惜しみ、その真っ直ぐで無所属な思いを知る為にも人生を振り返って、旅の街角で、日常生活の場で、氏が接した有名人の横顔について、と様々なテーマでつづられた本書を、氏の小説に魅せられた読者には、是非おすすめしたい。
鼠―鈴木商店焼打ち事件 (文春文庫 し 2-1)
平成22年9月に新潮文庫から出た玉岡かおるさんの「お家さん」は、鈴木商店の女社長ヨネの生涯を描いたフィクション。それに対して、城山氏の「鼠」は、鈴木商店の大番頭、金子直吉の生涯を中心に、鈴木商店の米騒動の焼き討ちの真相を究明するノンフィクションノベルだ。米騒動の研究書に掲載された証言者を一人一人訪ねたり、鈴木商店の社員たちを訪ねたり、朝日新聞社の当時の記者から話を聞き出したり、とことん取材を通して真相に迫る。多くの人に会い、取材を重ねるほどに、人の記憶の曖昧さやいい加減さに辟易する著者の苛立ちが伝わってくる。
1975年が初版で、42刷。隠れたロングセラーと言える。ぜひ、玉岡さんの「お家さん」と合わせて読むことをお勧めしたい。
粗にして野だが卑ではない―石田礼助の生涯 (文春文庫)
この言葉が最近頭からは離れません。
時代を超えて若い自分にまで鮮烈に響いた言葉である。
今の時代が本当に必要としている偉人なのかもしれない。
当時の石田礼助のやり取りを想い描くと時折クスッと笑いがこみ上げる
まっすぐで裏表が無く意思のある姿勢に惹かれました。
是非一読をお勧めします。
落日燃ゆ (新潮文庫)
東京裁判とは、第2次大戦後、連合国によって行われた、日本の戦争指導者たちを戦争犯罪人として審理した国際軍事裁判であり、
起訴された被告人全員が有罪となっている。
また、ここで裁かれたうち、広田弘毅も含む14人は、小泉さんが参拝するたびに問題となっている靖国神社に今もまつられている。
広田弘毅は、南京大虐殺事件の外交責任を問われ、文官としてただ1人絞首刑にされた人物である。
しかし東条英機のほうが圧倒的に有名で、この本を読むまで彼がどんな人物かなんて意識していなかった。
この本を読んでみて、彼の潔さ、そして努力家であるところなど、昔の古きよき、芯の通った骨太の日本人の姿をありありと感じ、すっかり尊敬してしまった。
彼が絞首刑となったのは、時代の流れに巻き込まれたゆえにすぎない。
自分から戦争を起こそうとしたことはなく、もちろん南京大虐殺との関連性は何一つない。
逆に戦争となることを必死で回避しようと奔走していたのだ。
それにもかかわらず、責任をとって絞首刑となることに対し、彼は弁明を全然しなかった。
「武士道」にもつながる精神だと思う。
この本を読んで以降、尊敬する人物を聞かれるたびに、彼の名前を言っていたら、相手が私のことを「右翼」だと勘違いしてしまうのが困りものだ。
1人でも多くの人が、本当の広田弘毅の生き方を知り、その勘違いをやめてほしい。