スタジオジブリ・プロデュース「コクリコ坂から歌集」
唄い手・手嶌葵の澄み切った歌声はすでに堂に入っていて、「ゲド戦記 歌集」の(処女作ならではの)不安定な魅力から脱皮し、あたかもベテラン歌手のような風格――しかし退屈な安定感には決して陥っていない――さえ感じさせます。作曲者(※数曲で歌詞も共作)・谷山浩子の書く旋律は、かの「テルーの唄」や「岸を離れる日」同様、「牧歌的」という言葉などでは到底括れないユニヴァーサルな情緒(と言うべきか)にみちみちていて、風鈴の音の如く静かに、少々の寂寥感とともに心に染み入ってくるようです。
そして全13曲中11曲を作詞している宮崎吾朗(今作の監督でもあります)。私はこの人の「映画監督」としての力量は判りませんが――映画「ゲド戦記」も観ていないので――、長年愛聴している「ゲド戦記 歌集」とこの作品を聴く限り、ジブリ映画の作詞家として大きな資質を持っている人だ、そう認めないわけにはいきません。「ゲド戦記」と時代背景も世界観も全く違えど、「僕と君」をやさしく包み込む広大無辺な世界への憬れと諦め、故郷の町への郷愁と微かな痛み――そんな淡い感情を喚起させる瑞々しい詩世界はどこか通底するものを感じます。原作から大きく膨らませた想像力と、彼自身のパーソナルな心情をまったき「ジブリ的」詩世界へと昇華させる宮崎吾朗、そしてその純度をまったく薄めることなく見事に歌い上げている手嶌葵……この完璧なコンビネーションに再び舌を巻きました。
1曲1曲が新緑を揺らす風のようで、楓の木のようで、地平線へ飛び去る燕のようで、夕焼け照らす案山子のようで、けれども通奏低音は夏の終わりに点す線香花火のような儚さをたたえている……そんな融通無碍な曲群があたかも一編の物語のように並んだこのアルバムこそ、ひょっとしたら映画本編以上に宮崎吾朗の描きたかった世界なのではなかろうか? それならいっそ映画を観ることは止めて、このアルバムに耳を傾け、私の中の「コクリコ坂」に思いを馳せるのも一興か……そんなことさえ考えてしまう、たいへん素敵な「歌集」です。
アタゴオルは猫の森 DVD
原作はだいぶ前に読みました。
『アタゴオルは猫の森』は、人間とほぼ同じ体格の猫と人間が一緒に暮らしているという、不思議で、どこか可愛らしい世界観が大好きです。
その外伝・ギルドマの映画化と聞いて、本当に嬉しかったです。
オープニングからド派手な演出で、これは楽しい!面白い!と思いましたが、原作はシリアスな物語なので、エンターテインメントとしての演出はあってもなくても良かったような気がします。(原作を知らない方にとっては、ヒデヨシの性格がよく分かって良いかもしれません)
フルCGという事でしたが、全体的に雑な感じが見てとれました。他のアニメーション映画作品に比べて制作費が少なかったという話を後で知り、非常に残念です。
それに、せっかくの素敵なお話も飛ばし飛ばしやっているような印象でした。時間の都合である程度のカットは仕方がないのかもしれませんが、これでは物足りないなと感じてしまいました。
良くなかった所ばかりを書きましたが、ヒデヨシのふわふわの毛並み、漫画でしか見られなかった、あのぽってりとしたお腹…3Dならではの可愛さもあります。
それに、ギルバルスは反則と言って良いくらいカッコ良かったです。ギルバルスの演出では全然雑な感じがしなかったのに、テンプラとツキミ姫はおまけ程度な印象でしたが…;
また、キャラクターデザインが原作と異なる『女王・ピレア』の気味の悪いくらいの美しさは、見ていてゾッとします。
猫や人の命を奪って美しくなるという残酷さを際立たせています。個人的にはピレアの演出が一番のお気に入りでした。
最後にスタッフロールが流れる時に映る、アタゴオルの自然の風景はとても綺麗でした。もし本当にあるならば、あんな所に住みたいとまで思いました。
声については、想像していたのと若干違うような気がしますが、ヒデヨシ・ヒデコ共に有名な方を起用してあり、その点は大満足でした。音楽も良かったです。
私はどちらかと言うと漫画の方が好きですが、ラストはやっぱり感動して泣いてしまいました。
何となくですが、ファンの方に絶対おすすめ!という訳ではないなと感じます。
むしろ、原作を知らない人向けの映画ではないかと。(かと言って、子供向けの作品ではありませんけどね…)
車のいろは空のいろ (ポプラ社文庫―日本の名作文庫)
今の小学校の教科書には載っているのでしょうか。
最近になって読みかえしたとき、聞き覚えのある文章の冒頭部分のフレーズとともに何だかとても爽やかな気分になりました。
この本は、タイトルも一度聞いたらなかなか忘れられない本ですが、中身の方も同様です。普段見落としがちな小さなものに感動する事、相手を気づかう事、日本の歴史の影、自然破壊の事などを嫌味を全く感じさせずにとりあげています。対象年齢は小学生ですが、大人になってもう一度読む価値があると思います。
ストレンジデイズ 2011年 11月号 [雑誌]
雑。
この一言につきる。
雑多にメリハリ無く記事がある。読みにくい。写真が掲載されていても、誰の写真なのか知ってる人しか理解できない。まず、雑誌が編集者の意図したとおり読者が読まれるとは限らないので、その点について初歩的な過ちを侵してしまっている。これが残念な事。とにかく判っている人間以外には判りにくい紙面構成になってしまっているのが残念。震災以後、財政的な面で、ライターや編集者の力が及び切れない部分があるのかもしれないが、そこはやっぱり丁寧な誌面作りをお願いしたい。それなりの価格に見合うように。