アンソニーのハッピー・モーテル [DVD]
心を病んで、施設に入院していたアンソニー(ルーク・ウィルソン)は退院し、
新しい人生を歩み始めようとする。親友のディグナン(オーウェン・ウィルソ
ン)は、アンソニーに強盗になる人生を勧め、緻密な(?)75年の計画を語り
出す。アンソニーは、ディグナンの計画に若干の疑問を抱きつつも、彼の
熱心さにほだされ、強盗としての第一歩を歩み始めるのだが…。
独特の世界観を持つ作品を連発し、ハリウッドでも異彩を放つウェス・ア
ンダーソンの記念すべき長編デビュー作。テキサス大学で、ルーム・メイ
トだったアンダーソンとオーウェン・ウィルソンが共同で脚本を書いた同名
短編(1994)を基にした作品だ。テスト試写では、コロンビア(ソニー)映画史
上、最も評価が低かったとのこと。また、実際の興行成績も振るわず、オー
ウェン・ウィルソンは、映画俳優を辞め、海兵隊への入隊を真剣に考えた
ほど。日本劇場未公開作。
原題の”Bottle Rocket”に込められた意味は、アンダーソン監督自身の
言葉によると、以下のようになる。「"Bottle Rocket”は、ハデに爆発する
不格好で安っぽい花火のことだけど、予想もしない動きをしたり、粗製な
ので違法なんだ。ガレージなどに引火したら、庭まきホースを持っている
近所の人に消してもらうしかないんだ」つまり、アンダーソン監督は、本作
の不格好で不器用な主人公たちに、”Bottle Rocket”(粗悪な花火)のイメ
ージを重ね合わせているのだ。実際、劇中、主人公たちが、Bottle Rocket
を購入して、子どものようにはしゃぐシーンもある。
その”Bottle Rocket”たちの何をしでかすか予想のつかない社会不適合
者ぶりがとにかく可笑しい。何の疑問もなく、強盗としての人生を歩み出
す決意をする、その思考の飛躍ぶり、不可思議ぶり。本人たちは大まじめ
なのに、傍から見るとズレているというアンダーソン作品の持つ微妙な違
和感は、処女作で、すでに大きな魅力を放っている。ちょっと間の抜けた
テンポと緩やかに浮遊するような空気感のアンダーソン演出は、彼らの現
実ばなれしたシュールともいえる世界観を繊細に捉えている。基本、彼ら
の可笑しく、特異な生態を描いたコメディということにはなるが、しかし、ア
ンダーソン監督は、彼らのような人間を「社会の落ちこぼれ」として、興味
本位で描いているわけでは決してない。あまりにナイーブで、あまりに不
器用な心の持ち主である彼らが、自分たちのファンタジーを作りあげ、家
族のような連帯を形作ることで(同じジャンプスーツを着るのは、『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ [DVD]』
のジャージ、『ライフ・アクアティック [DVD]』のチーム・ズィスーのコスチュ
ームにつながる)、過酷な人生を渡って行こうとする姿を応援し、やさしく
見守っているのだ。なぜなら、他ならぬアンダーソン監督自身が、Bottle
Rocketそのものだからである(主人公アンソニーを演じるルーク・ウィルソ
ンの風貌が、アンダーソン監督の生き写しなのがその証拠だ!)。まさに
アンダーソンの独自の目を通して描かれる、おかしくて、切なくて、ほろ苦
い味わいの人生讃歌だ。
主演のウィルソン兄弟は、実際の兄妹ということもあって、あうんの呼吸。
役柄上、オーウェンが破天荒な行動をするのを、ルークが庇護者のように
見守る姿や視線の交わりには、やはり演技以上のものを感じさせる。実
にいいコンビだ。ほぼ、素人同然の俳優に交じって、その存在感を見せ
るジェームズ・カーンも茶目っ気があっていい。
本DVDは、マスター・ポジよりHDテレシネされたマスターを使用したもの。
96年の作品ということで、色乗り、ディテールともに良好な画質。ただし、
2008年に米クライテリオンから発売された2枚組ディスクの画質(アンダー
ソンと撮影監督ロバート・イオマンによるテレシネ監修)に比べると、画面
全体が若干暗い(カラコレ=色補正の違い)。音声は特に問題もなく、明
瞭だ。特典などは一切なし。
ヴィデオ・スルーという形とは言え、アンダーソンのデビュー作を観られる
ことは嬉しいが、それにしても、この何の思い入れもない(そして的外れ
な)安直なヴィデオ題には、呆れを通りこして怒りすら感じる。『ハッピー・ロブスター [DVD]』
もそうだが、ソニー・ピクチャーズ・ジャパンの担当者は、よほど「ハッピー」
に飢えているのだろうか…。
地獄のモーテル [DVD]
「農夫ビンセントの特製ハム」は巷(半径160Km以内)で大人気。
しかし、その原料はビンセントが妹のアイダと共に、夜な夜な車やバイクを引っ掛けて、人間を生け捕り、麻酔を打って声帯を切除し、漏斗でえさを与え、いい具合に肥えたら収穫する人間北京ダック(北京ダックのアヒルは土に埋められている)だった。
いつものように引っ掛けたバイクの2人組の若いほうの子を珍しく介抱するビンセント。
彼女の名はテリー。彼の弟で保安官のラリーも彼女に惚れていたがテリーはビンセントを選んだ。
しかし、近親相姦めいた愛情を抱くアイダによって冷静さを取り戻したビンセントは彼女に睡眠薬を飲ませた。
その頃、腹立ちまぎれに兄のあら探しをしていたラリーは湖に何台もの車が沈んでいることに気づく。
一方、テリーの連れのボーは畑から脱出して埋められていた仲間達と共に家に向かっていた・・・。
埋められた人々を照らす照明、死ぬ間際に暗示をかけるサイケデリックな光などはまるでショッカーの改造手術室の様(声帯を彼らに切除されるのであながち遠くもない)。
縛られたテリーを助けに現れたラリーを待ち構えるビンセントがなぜか豚の頭被ってるのも“怪人豚男の恐怖!”な感じである。
畑から抜け出してきた人達は声帯を切られている為、「ゲッゲッ」「ゲロゲロ」としか声を発せられず人間蛙状態。ゾンビのようだがゾンビより怖い。多勢に無勢でアイダは彼らに復讐される。
そのままクライマックスはラリーとビンセントのチェーンソーでの一騎打ち。
こんなもん被ってりゃ、負けるだろうと思っていたらビンセントの方が押し気味、「ウワーハッハッハッ」と笑いながら、チェーソーを自在に操り、ラリーを圧倒する。
これはまるで「帝国の逆襲」の対決が田舎で展開されてるよう(テリーが縛られてスライサーが頭の後ろに迫っているのも何やらスターウォーズ的)。
ラリーは腹を軽くかすめられるものの、片腕を吹っ飛ばされることもなく、ビンセントの脇に一撃を加え勝負を制する。
そして、テリーを救い出し、兄に食い込んだまま作動しっぱなしなチェーンソーを止めた。
ここからはビンセントの告白。
「お前にやるぞ、モーテルを、畑もだ。」
「畑?」「秘密の畑だ。家畜もやる。面倒をみろ・・・家畜たちの」
「引き受けた」
「俺の一生は全てが・・・ウソだった。」
「俺はな 最高の偽善者なのだ。大ウソつきだ」
「どういうこと?」
「うちの肉に・・・○○○を使ってたんだ」
この衝撃の告白は見てご確認を。
MOTEL (ニチブンコミックス)
とあるモーテルを舞台にした連作短編
一晩の間に色々な部屋で起きた事件を、各話で並列に描いています
ファンタジーとエロ
バイオレンスとエロ
コメディとエロ
その他モロモロの大人の愉しみがたっぷり
それにしても、岡田ユキオはストーリーテラーでありながら
描く女性がむちゃむちゃエロくていいですね♪
パラダイス・モーテル (創元ライブラリ)
ある奇怪な事件の顛末が主人公に語られ、その事件に関わった人物たちのその後の体験が主人公に伝えられるというお話。その事件や体験がそれぞれグロテスクで奇怪、不条理な話で信じていいのかよく判らないまま小説は唐突に強制終了してしまう。なのに読後観は悪くなく、(個人的に)風通しのいい小説を読んだ気分になるのが不思議。それが偏にマコーマックのスマートな文体に起因してると思いますが、どうでしょうか。「洗練されたゴシック小説」とか変な形容をしたくなる不条理ミステリの佳作だと思いました。これを読んで面白かった人は同じ著者の「ミステリウム」もお奨め。まぁ私のような特殊読者向けだと思いますが。値段も20年まえだったら500円ぐらいだったろうに、今だと2倍になってるのも物価上昇の不条理さを感じます(或は本そのものを不条理な存在にしようという出版社の計略か)。