親鸞 1 叡山の巻 (新潮文庫 に 1-14)
本当は面白い大傑作なのに何故か読まれなくなってしまう作品というのが、たくさんあるんだろうな、と思わせられる作品である。
歴史的背景も深く、しっかりと記述されていて、そのなかで、等身大の親鸞が動くのである。吉川英治の親鸞(あの作品はあの作品でとてもよいのだが)を読んだ後、丹羽親鸞を読むと、リアリティがあり、より入り込んでしまう。
とりとめもないが、2つ書いておきたいことがある。ひとつは、川端康成の伊豆の踊り子みたいな、駄作を名作と持ち上げている一方でこういう作品が埋もれて忘れられていってしまうのはもったいないということ。
あと、オウムみたいな事件もあり、宗教=いかがわしいものと位置づけられてしまって、宗教文学というのは広く読まれるものではなくなってしまっていたと思うが、最近の健全な仏教ブームにのって、この作品をはじめとする、宗教文学が(江原小弥太とか倉田百三とか)簡単に手に入るようになったらうれしいなと思う。
ゴールデン☆ベスト 竹山逸郎 異国の丘~誰か夢なき
約十年前に竹山逸郎の16曲入りベスト盤が発売されましたが、今回は21曲入りです。竹山逸郎の異国シリーズや隠れた名曲が収録されています。竹山逸郎の魅力を再認識できるヘスト盤だと思います。
海戦(伏字復元版) (中公文庫)
海戦の従軍記といえば、ミッドウェー海戦の牧島貞一氏が有名だが、本書は2005年に百歳で没した文化勲章受章者の作家、丹羽文雄氏の記者時代の貴重な従軍戦記である。初出は昭和17年11月の『中央公論』であり、軍機密にあたる部分を検閲で伏せての発表となった背景を持つ。
本文中で著者も語る通り、どのような規模や局面であろうとも、戦争の記録というものは実体験には敵わない。砲声、吶喊、硝煙の臭い、そして傷者の血肉と呻き声…。海戦の中で著者は、20糎主砲の斉射の轟音に驚倒し、凄まじい光芒に目をうばわれ、爆風に叩きつけられ、破片創を蒙り…。戦闘後に士官達から激賞された程の貴重な体験をした。
それでも伝わらない。著者はあくまでも軍人ではなく素人の目で海戦を活写する姿勢に徹しているが、いくら言葉を尽くしても、戦場の実態を文章で伝えることは無理なのである。
全体の文章にも、どうしても戦友愛や滅私の忠勤を殊更強調するきらいがある。またラバウル帰港直前に潜水艦に撃沈された重巡「加古」にも触れられていない。海軍の後援を受けているため仕方ないのだが、書けなかった事などを盛り込んだ改訂版を戦後書いて頂いていればより興味深かったと思う。ただ、戦場と同じように我々が知り得ない、士官室やガンルーム(士官次室)、艦内の様子、戦闘中の艦上の将兵の行動、ラバウル港内の風景描写などは非常に優れている。
本書には他に小品二作が収録されているが、その中にぼろぼろの服装をした連合軍捕虜の描写がある。著者は搾取と強圧、傲慢の英米人の成れの果てという様な表現をしているが、自らが重巡「鳥海」に乗ってすぐ間近に見たガダルカナルで、連合軍捕虜たちを遥かに越える悲惨な生き地獄を、この後すぐに友軍が味わう運命になろうとは、皮肉としか言いようがない。正義や主義の正誤ではなく、戦争は敗けたものにより過酷で悲惨な境遇を強いるものなのである。戦場で敢闘し、奮戦し、猛訓練の成果を発揮し、傷病と犠牲の辛酸を舐めるのは、何時でも何処でも最前線の将兵たちであった。