古楽の旗手たち―オリジナル楽器演奏のめざすもの
著者が自ら意図した出版ではなく、
逝去後に様々な文章の中からセレクトされたものを1冊にまとめた本。
著者は、芸大でトランペットを専攻、ポリドールレコードのクラシック部門に勤続しつつ、
リコーダーとバロック奏法を学び、執筆活動を展開。
「この10年ほど、音楽的な関心は古楽に集中して」きたと著者は書く。
「目隠しをされた馬車馬のように、自分の楽器や当面する曲にしか関心がなく、
解釈も演奏も従来型の通念を一様に押し当て、難技巧をひけらかすように“圧倒か、それとも失敗か”と奮闘する
クラシック音楽レースの競争者たちの演奏には関心が薄れた」という。
そのかわりに「のびやかに自由に開かれた態度で、作曲者、作品、楽器、楽譜、演奏慣習に興味を持ち、
音楽を名演奏の枠や価値観に固定せず、作品が内包する種々の可能性を、演奏を通じて解き放つ」
古楽に惹かれていった。
本の中には、その具体的事例がふんだんに記されている。
第1章に掲げられている3つの名前、
ブリュッヘン(リコーダー、指揮)、ビルスマ(チェロ)、インマゼール(鍵盤楽器、指揮)には
格段の思い入れがあり、読んでいると著者の前掲した姿勢と、息せき切ったような様子が伝わってくる。
この3人の場合は、ポートレート写真が掲載されていて、そのどれもが素晴らしい。
なかでもビルスマが、ステージの上に置かれたピアノの前でチェロを弾いている写真は、
左手で弦をおさえ、右手で弓を構え、やや小振りなチェロを演奏しているだけだが、
彼の表情と自然なチェロとの一体感は、何度見ても初めて見るような何かがあって、じっと見いってしまう。
巻末に黒田恭一氏の追悼の意を込めた推薦文がある。
バッハ:鍵盤作品集成
グスタフ・レオンハルト(Guatav Leonhardt)は1928年生まれの20世紀を代表するチェンバロ奏者である。バロック音楽の演奏様式・装飾音奏法に一つの道筋を確立し、楽器製作にも深い造詣を持つ。またバッハ研究では「フーガの技法」を鍵盤楽器のための作品として理論付けるなど、功績を上げている。そんなレオンハルトが1962年から1984年にかけて録音したバッハの鍵盤楽器が20枚組でまとめられた。申し分ないサービス価格であり、立派な日本語ブックレットとあわせてまさにお買い得なボックスセットである。20枚のうち17枚はチェンバロ、3枚はオルガンを用いた演奏である。
もちろん、格調高く、立派な演奏であるが、これらの演奏を聴き続けるのが結構疲れるというのも本音である。例えば、ゴルドベルク変奏曲やイギリス組曲のような“鞭打つような”チェンバロの音色がずっと楽しめる作品は素晴らしいのだが、フーガの技法ならエマール、パルティータならヴェデルニコフやフェルツマン、平均律ならアシュケナージのピアノによる演奏の方が100倍楽しいというのが偽らざる私の感想だ。これはアンドラーシュ・シフによる以下の鋭い問いかけにすべて言い表されている。〜「いま現在、1時間以上チェンバロ演奏に耳を傾ける忍耐力のある人がどれだけいるだろうか?」〜
やはりチェンバロという楽器の表現力はピアノに比し、圧倒的に落ちる。仕方ない。楽器の生まれた時代とその後の発展力に差があり過ぎるのだ。だから、これらの録音も、私にとって、「楽しむもの」というより「知るもの」として興味深い対象なのだ。楽しく聴きたいなら断然ピアノである。レオンハルトの堅実で剛直な演奏は好感が持てるが、それはともすれば単調さにも繋がっている。いかんともしがたい。
しかし、それでもこの価格で、これだけ「知の興味」を満たしてくれる集成版と考えれば、星5つ以外の選択も難しく、以上をご理解いただいたうえで「推薦」させていただく次第です。
アンナ・マクダレーナ・バッハの年代記 (公開題「アンナ・マグダレーナ・バッハの日記」) [DVD]
なんというか極めてクールな映画である。
グスタフレオンハルトというと バッハ演奏家としては 屈指の存在だった。そんな彼がかつらをつけてバッハに扮し 延々と演奏を続ける映画と言って良い。映画の持つダイナミズムや飛躍を 真っ向から否定した地点で語られる もう一つの映画のあり方が 映画としての本作の ラディカルさである。
バッハ好きの方には 堪らない一作であるだけではなく 映画としての野心も十分滲んで来る。バッハとレオンハルトの共犯関係の地平線に 本作があるのだ。
バッハ:ゴルトベルク変奏曲
いろいろな奏者のバッハを聞きましたが、真剣にバッハ演奏に取り組みたいと
考えたのはこのCDを聞いてからです。
レオンハルトの演奏についてどのようなものかと言えば、『ひたすら譜面に
忠実』であり『常に速さが一定』です。こう書くと非常につまらなさそうな
印象ですが、ゴルトべルクは鍵盤曲の中でも最高難度の曲なので、正確さ速さを
忠実に守って弾くのは大変な努力と集中力が必要であり、技術面は驚嘆するものが
あります。またなぜか単調さを感じさせずエンドレスで聴いてしまう魅力があります。
グールドのような情緒あふれるバッハを好まれる方にはこの演奏は物足りないかも
しれません。わたしはグールドも好きですが、レオンハルトのようにむきだしの飾り
ないバッハは、このシンプルでありながら高貴な音楽を、聴き手へダイレクトに伝えて
いるのでは、と考えます。
「バッハを極め理解したときにようやく、音楽とは何かを理解するとっかかりが
掴める」とはわたしの楽器の先生の言ですが、”極める”ことの困難さを
いまかみしめています。生きているうちに”理解”できればいいのですが。
Jubilee Edition 80th Anniversary
グスタフ・レオンハルトは古楽界随一の巨匠となった感のある演奏者です。
その80歳記念という形で、この様に廉価版で15枚組というものが出たのは嬉しく思います。
「現代のバッハ」の名盤ぞろいといえます。
お買い得なセットだと思います。バラで1枚ずつ買えば2〜3万円はかかるでしょうから^^;