L'integrale
サンソン・フランソワ(1924-1970年)の文字通りの集大成である。1970年代、レコードを集中して聴きはじめた頃、フランソワはすでに活動を終えており当初は親近感がなかった。その後、ショパンを聴くようになって、ルビンシュタインとフランソワの演奏には深く心動かされた。当時、ショパンではこの2人が、一方ドイツ系ではバックハウスとケンプがそれぞれ2大巨匠というのが通り相場だった。
神童中の神童であり、19才でロン・ティボー国際音楽祭で優勝するが、これでもあまりに遅すぎるデビューと言われた天才肌のピアニスト。46才での逝去は普通なら「これから円熟期」と惜しまれるところだが、この人に限っては、23才のSP録音から20年にわたってすでに下記の膨大なディスコグラフィを残していたのだから驚愕を禁じえない。抜群のテクニックを軽く超越したような奔放、華麗な演奏スタイルはこの時代でしか聴けない大家の風貌である。本価格とボリュームなら文句の言いようのないボックスセット。
<収録内容>
CD1〜14:ショパン、CD15〜16:ラヴェル、CD17:ラヴェル、フランク、CD18:フランク、フォーレ、CD19:フォーレ、ドビュッシー、CD20〜22:ドビュッシー他、CD23:フランソワ、ヒンデミット、CD24: J.S.バッハ、モーツァルト、ベートーヴェン、CD25:ベートーヴェン、シューマン、CD26:シューマン、リスト、CD27:メンデルスゾーン、リスト、CD28:リスト、CD29:プロコフィエフ、バルトーク、スクリャービン、CD30:プロコフィエフ、CD31:(SP録音)ショパン、ラヴェル他、CD32:ブザンソン音楽祭(1956年9月)、モントルー音楽祭(1957年9月17日)他、CD33:ブザンソン音楽祭(1958年9月12日)他、CD34:日本来日公演(東京、1956年12月6日、1967年5月8-9日)、CD35〜36:サル・プレイエルリサイタル(1964年1月17、20日)
ラヴェル:ピアノ名曲集 2
同時にリリースされたラヴェルのピアノ曲集の第2集にあたり、第1集と同様67年に集中的に行われたセッション・ステレオ録音。尚組曲『マ・メール・ロワ』はピエール・バルビゼとの連弾になる。以前買ったARTリマスター盤が時代の埃にまみれて色褪せているように聴こえるのに対して、このHQCDではオリジナル・マスターの精彩を取り戻した鮮やかさと臨場感が特筆される。
フランソワのラヴェルには特有の鋭いセンスが漂っている。しかもそれが決して神経質なものにならず、流れを失わないのは彼の創造する音楽が即興的に千変万化する自在な表現力に支配されているからだろう。高貴な哀感を湛えた『亡き王女のためのパヴァーヌ』、流麗で神秘的な『水の戯れ』、燦然とした『古風なメヌエット』、恐ろしく多彩で緻密な『鏡』や機知に富んだ『ソナチネ』、そして映像的な描写が巧みなバルビゼとのデュエット『マ・メール・ロワ』など魅力の尽きない曲集だ。
サンソンフランソワ ピアノの詩人
1970年に46歳で亡くなった天才です。コルトーが彼を見出し、異才の彼を優勝させるためにロン・ティボー国際コンクールが作られたと言うエピソードがあります。無類の感性とテンポ・ルバートが紡ぎ出すショパンは至宝です。1960年位の35歳の頃の演奏が技巧と音楽のバランス良くて見事ですね。ワルツやノクターンはもちろん、エチュードが見事です。op-10-11をこんな風に弾く人がいるでしょうか?彼が今ショパン・コンクールを受けたら予選落ちでしょうが、それはコンクールが間違っているのでしょう。
本来は書評を書くべきでしょうが、まずはCDを聴いてみて下さい。そうしたらこの本は星5つです。グールドの音楽とは違った世界にも天才がいることに共感してもらえたら、それ以上何もいうことはありません。
ラヴェル:ピアノ名曲集 1
Tombeau de Couperin の Toccata を聴くために購入しました。この曲はコンクールで小学6年生から中学1年生くらいがよく弾いてますね。今回 Francois と Perlemuter, Giesking, Gilelsの演奏を聴きました。御存知のように Perlemuter は Ravel の弟子なので、演奏には Ravel 自身の解釈が反映されているでしょうから、ここのメロディを Ravel はこういう風に聴かせたかったのかなと思いつつ、興味深く聴くことができましたが私個人としては違和感のある演奏でした。Giesking はとてもスタンダードな演奏で華が無く、上手な中学生の演奏と大きな差を見つけることは私には出来ませんでしたが、生で聴けば印象は違ったかも知れません。Gilels は和音の響かせ方やメロディの歌わせ方がベートーベンっぽい印象でした。Francois は導入部から和音のどの指の音を強く弾くかなど同じ和音でも変化をつけて来たりします。ペダルの踏みかたは他の演奏者より浅いので音色は全体にクリアです。陽射しがきらきら輝く海で少しもぐったり顔を出したりしているような情景が、ペダルの変化によって目に浮かんできます。メロディに流されすぎないリズムのとりかたが気持良く、コーダに向けてわざと少し歯がゆいようなテンポから一挙に持って行くところは爽快です。リマスタリングの技術もかなり進んだようで、ヘッドホンで聴いていますがストレスはほとんど感じませんでした。この録音のあと、他にCDで弾いている有名なピアニストがほとんどいないように見えるのは、やはり決定的な演奏だったという証拠だと思います。そういう意味ではRichter の Matthaus Passion のようなものと言えるのではないでしょうか。
CHOPIN (ショパン) 2008年 06月号 [雑誌]
「20世紀の大ピアニストたち」シリーズ第4回に登場するのは、1970年に46才で急死した、鬼才とも呼ばれるサンソン・フランソワです。私もピアノをたしなみますが、中学2年でベートーヴェンの3大ピアノソナタの廉価版をたまたま購入したのがサンソン・フランソワとの出会いでした。それ以降、ショパン、ドビュッシー、ラベルの演奏は基本的にサンソン・フランソワのLP・CDを基本に購入するようになりました。ホロヴィッツのピアノの弦が切れるかのような演奏も良し、アルゲリッチの素晴らしく早いテンポと比類ないテクニックも良いのですが、コルトーに続くフランスの古きよき時代の最後を飾るのは、サンソン・フランソワをおいては他にありません。近年の正確なピアノテクニックを競う演奏ではなく、即興的なショパンのテンポルバート、聴く者を唖然とさせるエチュード、もう何も言葉のでないポロネーズ、自由闊達なショパンに対して、何故か非常にまじめに模範的な演奏を残しているドビュッシーとラヴェル、20世紀が生んだ4番目ではなく1番目のショパン演奏家だと私は思います。この雑誌が絶版になる前に、注文されることをお勧めします。フランソワの残した貴重な言葉も載せられています。サンソン・フランソワという演奏家の人間像に迫る特集です。