恋文の技術 (ポプラ文庫)
個人的な森見作品の評価としては、
彼の作品を読んで何かを得るということはない(不思議と、何かを得たような気持にはなるが)。
しかし、面白いしあたたかい気持ちになる。
なので、1秒たりとも人生に無駄な時間のない人は読むべきではないが、
何となく時間を持て余しているという人は是非読んでみるとよいかと思います。
この本では、(自分が読んだ中では)今までになく、手紙で話が進んでいくという不思議な設定ですが、
読み進めるのに苦労を強いられることはなく、ひたすらに守田一郎の破天荒さに乗っかって読んでいけます。
読み終わった後は、何となくすっきりした気持ちになり、これから自分も頑張るか!と、何となくそんな気にさせてくれるものでした。
太陽の塔 (新潮文庫)
この本を読みながら、学生時代に(今でもするが)、妄想するという行為は僕ひとりではないと思って朗笑した。主人公とその悪友たち、自分たち自身を過信してしまうのは若かりし時は特権だろう。妄想が妄想を呼び、飛び切りユーモラスな自分ワールドが広がっていく。この面白さ!!妄想だけではなく、作者のキレのある表現がこの本の魅力を最大限に引き出したのだと思う。
文中の箴言抄
・考えてみれば、世間は生まれる時代をまちがった人間でいっぱいである。
・我々の日常の九十%は頭の中で起こっている。
・できるだけ彼らが不幸になることを、彼は祈った。「みんなが不幸になれば、僕は相対的に幸せになる」
この本は日本ファンタジーノベル大賞受賞作である。妄想という行為は確かにファンタジーだと気づかせてくれた。Fantastic!
四畳半神話大系 第1巻 [DVD]
テレビ放送は未見でしたが書店のPVをみて購入を決意しました。
「神話大系」というところからなにか不思議な世界の話かと思っていましたが
いざ見てみるとなんか面白いキャラクターたちが繰り広げる愉快な、でもうる星やつら
などとは違うしっとりと心にかかわってくるような不思議な味を持ったお話が心地よかったです
「テニスサークルキューピッド」での花火爆撃、「みそぎ」での不毛な中傷映画の上映会
しょうもないを通り越す不毛さがもたらす笑い。なかなかシュールです。
登場人物の明石さんは声がぴったり合っていて魅力的ですしね。
舞台「夜は短し歩けよ乙女」 [DVD]
原作に準じた作りはいい。まさか4章全部演じるとは思わなかった。
原作を知っていれば没頭できるだろう。
しかし飽くまで「原作を知っていれば」だ。
そうでなければ荒唐無稽なファンタジー劇になってしまうかも知れないし、無理に舞台化した感も湧いてしまうだろう。
けれども、総じてよくできている。原作を知らずとも楽しめるほどに。
主人公「私」なぞ、明らかにモデルより年かさだが、童貞理想主義者らしくて好感が持てる。登場人物もなべて好ましい。
しかし、
だがしかし、
肝心の「黒髪の乙女」が微妙に黒髪でないのはどうか。
ライトの当たり具合ではやや茶色に映るし、もとより余りにカツラ過ぎる。
あまつさえ、他の役者に較べて明らかにカラ元気でセリフをカラカラと叫ぶばかり。
彼女に演技はまるでない。原作から膨らんだ他者に較べて台本通り。
原作のような天真爛漫な萌え少女ではなく、単なる不思議ちゃんになっている。
それだけが残念だ。
この物語は乙女が主体なので、それが主人公に夢想させるほど魅力的な存在あるいは演技でないと、興醒めしてしまう。なぜ彼は彼女にこれまで夢中になるのか、わからなくなってしまう。
万人の絶対的な存在などありやしないが、
せめて、黒髪の乙女は、少なくとも完全な黒髪であってほしかった。
それは主人公と読者の共有する唯一の要素であったのだから。
そうであればありがちないち劇団員のベタな演技でも許せた筈だ。
だからお話としては面白くとも、評価を下げて星3つだ。
原作を知らない人にはもっともっと面白く見られると思う。
しかし原作を知っていると、
どうかな。