ヒカシュー
このアルバムに入っている「プヨプヨ」の巻上公一さんの
笑い声を聴くと、幼い子供は「コワイ!」と逃げ、
猫がくせ者はどこだ?という感じであたりを見回します。
そんなトラウマになりそうな不気味でポップな名曲を含んだ
ファーストアルバム。
聴きやすいのに凝っている、粒ぞろいの名曲ばかりです。
ジャケットのアピール度で「うわさの人類」から買って、
挫けてしまわないよう、やはり最初はこれを聴いて欲しい!!
裏ジャケットのコタツに入って睨みつけるメンバーの
姿が、このアルバムのユニークさを見事に表現していると思うのです。
アルバムを気に入ったあなたは早速ライブへGO!!
未だに衰えぬヒカシューの意欲とテンション、
実地に体験してみてください!!
(このアルバムからも必ず演奏してくれます!!)
うらごえ
2011年5月ニューヨーク録音。
「美しく煮えたぎる超絶盤」とオビにありますが、まさしくその通りで、いつになく激しい世界が展開されています。
楽曲は5曲で、あとは即興ですが、どのトラックもすばらしい。冒頭の「筆を振れ、彼方くん」から、たちまち作品世界に取り込まれます。
表題曲「うらごえ」は、のんびりした曲調に深みのある歌詞と、まさしくヒカシューならではという感じですが、本作の中ではむしろ異質に聞こえるかもしれません。なにせ他が緊迫しているので……
「ひとり崩壊」は本作でもっともヘビーな曲。脳天を割られそうなリズムに加え、巻上公一の迫力ある歌唱が聴きものです。
「生まれたての花」は、清水一登のピアノが美しいメロディを奏でるバラッド。三田超人のスライドギターも効いています。おそらく無関係なのでしょうが、歌詞の内容もあり、どうしても昨年の災禍を連想させられてしまいます。
ここまでで、アルバム全体としての展開はひと区切りとなり、次のインスト「つぎの岩につづく」はいわばコーダにあたる部分。坂出雅海、佐藤正治のリズムセクションがどれほど強力かというと、これはもうライブを聴いてもらうしかないわけですが、ここではその一端が存分に堪能できます。
激しいのに落ち着く、という矛盾した形容を付けたくなる、なんとも不思議な演奏で、ほぼ同一テンポながら絶妙に押し引きするリズムに、ギターやキーボードが手を変え品を変え、いわば上物を次々と乗せてゆき、後半からはリズムにもアクセントが強調され、じわじわと白熱してゆきます。10分を超える長尺の演奏でありながら、間延びしたところがなく、長さを意識させない。タイトルどおり、次への含みを思わせるかのような印象で、余韻を持たせたまま終りとなります。
それと今回、録音がいつもと大きく違います。ぐいっと前に出てくる感じで、臨場感が凄い。本作はほとんどスタジオライブで録ったそうなので、勢いを保つためにあえてそうしたのでしょう。
ちなみに本作のカバー画は女性現代美術作家の束芋。事前に作品を聴き込んだうえで描いたらしく、作品世界がきちんと反映されています。その他、カバーのもの以外にもいろいろ描いたようで、ライナーにその一部が掲載されており、こちらも興味深く見ることができました。
ライブとCDがぜんぜん違う、というのがヒカシューで、それぞれに良さがあるのですが、本作はこれまでライブでしか接することのできなかった面がかなり出ていると思いました。
また、これが気に入ったならライブに行きましょう。ライブでのヒカシューは実に鮮烈で、まさに唯一無二の世界を体感させてくれますので。